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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る





「アリエッタ」


 ギルデロイの言葉で過去の記憶と邂逅していれば、しわがれ声に呼び覚まされる。


「あ、はい」


「キミの風景画や歴史画、静物画の腕前は眼を見張るものがある。この先もその腕前が伸びていくのは愉しみだよ」


「ありがとうございます……」


 アリエッタは曖昧に微笑む。“この先”があるとは思えない。それを知らないギルデロイに告げることは出来ないが。


「しかしここらで人物画も描いてみてはどうだ?」


「人物画、ですか?」


「というのもな。儂はここ数年毎年個展を開いておるのだよ。次の個展には人物画を主としたい。そこでキミの絵も1枚出展してもらいたいのだ」


「私の絵を……? ですが、私の拙い絵では教授の大切な個展のお目汚しにしかなりません。台無しにしたくはないのです」


 アリエッタはとんでもないと眉間を寄せる。


「そんなことはないよ。キミの才能も絵も儂は認めておる。それにだ。儂は今年限りでこの学校を去ることにした。年々老いを感じずにいられなくての。身体が思うように動かない。そこで最後にして最高の弟子の絵を、老いた儂のはなむけに贈ってもらえると嬉しいのだがの」


「教授……」


 目元の皺を深くするギルデロイを見上げ、瞳を揺らす。


 ギルデロイのためになるなら描きたい。でも、華やかな場所に自分の絵などと迷いも出た。






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