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隠匿の令嬢
第3章 肉食獣は紳士の仮面を被る



「いやらしい? こうして女性と二人きりで密室にいるのに、なにもしないほうが不健全だろ?」


「そ、そういうもの……?」


 さも当然のように言われるので世間に疎いアリエッタは信じてしまう。


 レオは紳士のマナーとして、さして興味もないアリエッタを誘っているのだろう。


「あの、前にも話したけど私、ここを出たら神に仕えるの。だからキスはちょっと……」


「唇じゃなきゃいいだろ?」


 唇でなければ手の甲や頬だろうか。押し問答を繰り返していても埒があきそうにない。本当はキス自体断りたいところだが、頬や甲にならば、と渋々頷いた。


「では俺から」


 レオはそう言うと懐中時計を丸テーブルの上に置く。アリエッタは椅子から腰を浮かし懐中時計を手に取った。


 両面に透かし彫りの緻密な絵柄が彫られた懐中時計はずっしりと重く、開くと秒針が規則的に時間を刻んでいた。


「頂上を指したら合図をくれ。1分数えて手を挙げる。差が少ないほうが勝ちだからな」


「わかったわ」





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