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第10章 依頼人　高橋　美樹

洋輔はどうしようもなくイラついていた。

立ち上がり洋輔に向かってきた男に
もう一発入れてしまう。

ガラガラと丸いすを倒して崩れ落ちる男。

「あー！！！
　やるなら外でやってくれ」

店主のオヤジが叫ぶ。

「悪かった...」

洋輔はポツリと言ってテーブルに金を置いて店を出た。

「待てよ！」

酔った男の怒鳴り声が背中から聞こえたが洋輔は振り向かなかった。
これ以上殴ったら歯止めが効かない。
もしかしたら殺すまで殴ってしまうかもしれない。

それほどに洋輔は苛立っていた。

洋輔は黙って駅へと向かった。

電車の扉に寄りかかりながら立っていると
不機嫌な顔をした自分の姿が写っている。
洋輔は目を背けるように中吊りに目を移した。
どうでもいい芸能人たちのゴシップが見出しを飾る。
洋輔はただそれを眺めていた。