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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。


 やばい。

 この人、ますます恰好よくなっちゃっているよ。


 野獣のような険しさを持ちながら、どこか憂いを帯びた……熟した男だけが持ち得る危険な香り。

 12年後のハル兄もまた、ますます男っぷりを上げていた。

 御年……36歳っ!?

 
 ナツが夢の王子様のように、白皙で髪や瞳に色素が薄い茶色の美貌を持つのなら、ハル兄はサバンナの帝王のように、浅黒い肌で髪や瞳は漆黒色の、野性的な美貌を持つ。


 なんだよ、この兄弟。

 なんだよ、この遺伝子。


 佐伯家のパパとママは、至って普通の脇役AとかBとかCだったのに。

 なんでここまでの突然変異が生まれたんだ!?


 ハル兄は険しい切れ長の目をさらに細めて、あたしからナツを奪う。

 その左手の薬指には指輪はなかった。


 ハル兄が高校生であたしが小学生の時、あたしは一度、女遊びの烈しいハル兄を見兼ねて、説教したことがある。女にふらふらせず、結婚を視野に入れて真剣にお付き合いをし、腰を据えろと。


――結婚? お前ガキのくせに、随分と古めかしいババァ発言するな。俺、束縛されるの嫌だから。束縛ばかりされる結婚するなら、一生独身で女と遊ぶ。


 ……この男、終わってる……。

 そう思った小学生の時。


 チャラい男子高生は、堅実な小学生に失望を与えた。


 いまだ彼は、自由気儘に女達(看護師やら患者やら)を食い散らかすハイエナと化しているのだろうか。……しているんだろうな、まずは女が食って下さいと、裸でやってきそうだ。


「シズのは甘すぎる。いいか、とっぷり味わえ。これが伝家宝刀の……"ぐりんぐりん"だっ!!」


 ……思い出す。あたしがナツにぐりぐりをしていたのは、ハル兄から受けていた"ぐりんぐりん"をただ真似しただけの可愛いものにしか過ぎないことを。


 昔から、ブチ切れるとハル兄は恐かった。

 あのぶちっとした音は、ドアの向こう側で聞き耳でも立てていたハル兄のものだったのか。


「……ナツ、ご愁傷様」



 あたしは、白目を剥いている夢の王子様にこっそり両手を合せた。
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