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目が覚めたら。
第5章 変態王子が暴走しました。
 

 彼はあたしに言った。


「ご心配なく。ナツには昔から、笑顔を向けてなんでも話し合える親友がいますから。"しーし"お姉様?」


 彼は手でクイと眉間の眼鏡のフレームを持ち上げながら、冷笑する。

 "しーし"をなぜに知る!?


「こんな……大都大学の名を汚すクズどもと、俺は違いますから」


 キラリ。

 眼鏡のレンズ越し、暗灰色の瞳が冷酷な光を放つ。

 目で殺す……、この男は本当にそれができるような気すらしてくる。



 感覚的に――。

 ハル兄が帝王なら、彼は油断のならぬ参謀だ。


 震え上がる一同及び傍観者達に会釈する余裕まで見せ、彼は慇懃無礼にあたしに挨拶をした。


「お久しぶりですね、その単細胞……お懐かしいです」


「あなた様は、どこぞのどなたで……?」


 ハル兄に鍛え上げられた、為政者には平伏す愚民の心得。

 このむかつきながらも逆らいがたい威圧感に、無意識に平身低頭してしまうあたしの体。

 
「佐倉です。……覚えてませんか、アナタの同級生だった佐倉由梨の……年の離れた末弟です」


 サクラユリ……?


――私自分の名前嫌いなんだよね。なんでお嬢様みたいにふたつも清楚な花の名がつくのさ?

 
「ユリ……? あのユリ……!?」


 名前負けしていた、男勝りなあたしの友達。

 いつも胡座をかいてがはがは笑う、明朗な小学校からの親友。


 そうそう、確かにいたわね、弟が。

 4人の弟のうち、確かこんなカチンとくる物言いの奴が。


――アナタ、高校生のくせに頭悪いんですね?


 ……憎たらしい、IQ三桁だとかいうガキンチョ。

 ユリの家で試験対策の勉強をしていた時、ふらりと訪れふらりと間違いを指摘し、ククと蔑んだ笑いを見せて消え去った、当時小学生のあの弟だ!!


 それが――。 


「お前か――っ!?」

「はい、俺です。頭悪そうなまま蘇って下さり、残念です」




「――もう、やめてよしーちゃん、それにお前も……」


 そしてナツ、現れる。

 汗ばんだ髪を乱して。
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