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目が覚めたら。
第3章 変態王子様は×××でした。
 ナツが選んだ服と共に試着室に押し込められたあたしは、初めてそこで自分の姿を大鏡で目にした。


 12年間の眠りは、ショートカットだったあたしの髪をロングにさせた。

 17歳の名残ある顔つきは、明らかに老いたものの、お肌の具合はいい。

 これが淫魔の力なのか、ナツが化粧水や乳液でぺちゃぺちゃお手入れしていてくれたのかはわからないが、これならスッピンでも大丈夫そう。童顔も幸いし肉体の実年齢よりは若く見られるかも知れない。不幸中の幸いだ。


 下着姿になってみた。

 17歳には持ち得ぬ減り張りがついて、女っぽい輪郭になった気はする。

 おぉ、なかなかいけるかもしれない。


 特にDカップ。

 思わず両手でブラの上から胸を掴んで中央に押し寄せ、あたしなりの色気を出してシナを作っていたら、鏡越し……僅かに開いていた試着室のドアから奇妙な視線を感じ、床にぽたぽた不浄の血の染みが。


「………」


 ハンガーを投げたら、ナツの声がした。

 絶対、イメージキャラクターの人選間違えている気がする。


「どう、しーちゃん。服、着れた?」


 鼻にはティッシュ。額に赤い傷を作って、実に爽やかに出迎えたナツが選んだのは、初夏の風にふわふわと気持ちよさそうな白いワンピース。


「しーちゃん、素敵」

「くっ……この馬鹿力。純白を赤く穢す気か」

「……しーちゃん、なんかそれ卑猥。僕、勃ちそう」

「やめんかっ!! 胸を揉むな、変態っ!」


 所構わずひっつくナツ。その隙間から注がれる憎悪の視線。


 "ババァのくせに"

 
 ……アラサーの女性の気持ちがよくわかる。

 肉体が少し大人だというだけで、嫉妬と僻みの対象になる。

 そして僅かな時間で経験を積んだ新アラサーは、それをスルーするスキルを即座に身につけ、目覚めたお祝いと称してゴールドカードを既に使っていたナツと腕を組んで外に出た。

 こうなりゃ見せつけてやる。


 ナツのエスコートはとても心地よい。

 ナツはふわふわした印象があるが、その瞳の動きを見ていると、結構気遣いができる男に成長していた。

 これも、ハル兄が出した修行の成果なのかもしれない。

 時折変態行動さえしなければ、彼は本当に王子様だ。
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