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可愛いヒモの育て方。
第19章 キズ

わからない。わからない。……なんにも言えない。
押し黙ることしかできない私に、さらに麻人の言葉は続く。
「母親の精神がおかしくなって、どんどん悪くなってるのもわかってるけど、どうしたらいいかわかんなくて……っ。頼る人もいないし、病院だって……っ」
麻人の手が、今度は私の腕を掴む。
「友梨香さんは、自分の母親を精神病院に連れていけますか!? 頭がおかしい、みてもらおうって、面と向かって言えますか!?」
初めて聞く、麻人の悲痛な言葉。切々と訴えてくるそれに、ただただ首を振って否定するのが精一杯だった。
「俺だってやだったよ! おかしくなってく母さん見るのも、毎日父さんのことで愚痴って泣いてる姿見るのも、代わりに俺に当たってくるのも……っ!」
麻人の腕にはさらに力がこもり、私の体は壁際へと追いつめられる。背中が軽く壁に当たり、息が詰まった。麻人の力は緩まない。
私の二の腕を掴む麻人の手が、小刻みにぶるぶると震えていた。
背中を丸め、麻人は深くうつむいた。
「友梨香さんち逃げたって、帰ればまたおんなじことの繰り返し……」

