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第1章 　

男の服は乾いているのに、女は服はずぶ濡れじゃ、と。
そして、女の服の所々には草の葉がくっついておった。
それは谷底にしか生えん草じゃ。
もう一人が言いおった。

なにがおかしいんじゃ、女は谷に落っこちよったんじゃから、服も濡れとるのも谷底の草がくっついとるのも当たり前じゃ、と……。

でも、おかしい、最初に言った男が言うた。

お前らも見たじゃろ？　
二人は崖の途中の真っ直ぐな岩場に、くっつくようにぶら下がっていたはずじゃ、と。
ロープはもう延びきっておった、と。
ロープは谷底までは届かなかったんじゃ。
じゃから、谷底に落ちた女を男が背負い、助けられるはずはないのじゃ、と。