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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第1章 壱
 一方、三門屋を出てから徳平店に戻るまでの道をお民は何か胸騒ぎにも似た想いを抱えて辿った。
 厭な男だ、と思った。まるで蛇のように冷たい、容赦のない瞳。あの冷えたまなざしがまるでお民の身体中を舐め回すかのように這い回っていた。思い出しただけでも鳥肌が立つような、背筋に鋭い刃をピタリと当てられでもしたかのような恐怖心を憶えずにはおれない。
 それにしても―と、思う。あの男は確かに今日初対面には違いない。あれほどの圧倒的な存在感を漂わせる男であれば、一度でも逢ったことがあれば、忘れるはずはない。
 しかし、何かが、あの男についての何かがお民の記憶に引っかかっていた。しばらく思い出そうとしてみても、まるで何も浮かんでこない。
 お民は直に考えるのを止めた。
 止そう、止そう。あんな怖ろしげな男のことなんて早く忘れた方が良い。
 お民はあの凍てついた瞳を頭の外に追い出そうとするかのように、小さく首を振った。
―今日の夕ご飯は、少し奮発して鰻にでもしようかしら。
 お民の頭はもう、他のことで一杯になった。
 鰻は源治の大好物なのだ。兵助は脂っこいと言って鰻を嫌ったが、お民は精がつくからと、持病持ちの兵助のために鰻をよく焼いた。
 まだ二十二と若い源治は飯でも丼に二~三杯はすぐに平らげる。それだけ食べて、よくあんなに細いままでいられるねとお民が呆れ羨ましがるほどの大食漢なのだ。実際、源治は均整の取れた、すらりとした長身だ。
 良人の歓ぶ顔が見たくて、お民の脚は自然に速くなる。
 あの冷たい眼をした男のこともそれきり忘れてしまった。
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