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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第2章 弐
 源治がお民をチラリと見、質問を続ける。
「しかし、今頃になって何でまた、突然、そんな話になっちまったんですか」
「それがねえ、あんた、こっち―つまり、徳平店の店子にとっては寝耳に水の話でも向こうの紅屋さんにとっては、そうそう突然ってわけでもないんだよ」
「それは、一体どういうことなんです?」
 お民が傍らから問えば、彦六は初めて湯呑み茶碗に手を伸ばし、ひと口だけ音を立ててすすった。
「日本橋の紅屋さんの商いがもう大分以前からはかばかしくないのは、お前さん方も知ってるだろう?」
「いや、初耳ですよ。そんな話、あったんですか」
 源治の存外に整った貌に軽い愕きがひろがる。
「ああ、マ、あそこは主人の惣右衛門さんを初め、長年勤め上げた番頭、手代と皆口が固いからねえ。内輪が皆口をつぐんで知らぬ存ぜぬを通していたから、思ったよりは世間さまに広まってはいないようだがね」
 彦六は大仰に肩をすくめた。
「困ったのは、ここから先なんだよ。紅屋の惣右衛門さん、何をとち狂ったか、この徳平店を手放そうって気になってね」
「そんな、まさか―」
 お民が信じられないといった顔で首を振ると、彦六は眉根を寄せた。
「そりゃア、私だって信じたくはない話だけど、こいつは紅屋さんの方から言い出した話ではないっていうじゃないか。紅屋さんのところが随分前から商売が傾いて借金もあるってえのを小耳に挟んだ旗本の殿さまが法外な値でお買い上げなさったっていうんだよ」
「一体、それはどういう―?」
 お民には皆目判らぬ話だ。紅屋惣右衛門が商売にゆきづまり、借財までこしらえていたところまでは判った。だが。
 何ゆえ、そこにいきなり旗本の殿さまが出てくるのだろう?
 「だからさ」と彦六はもどかしそうに言い、更に、ひと口、とっくに冷めた茶をすする。
「要は話のとおりさ。金に困った惣右衛門さんはその殿さまが申し出た話に飛びついて、考える暇もなくとっとと徳平店を土地ごと売っ払っちまったって話」
 彦六は三口めをすすって、思わず不味(まず)そうな表情になった。
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