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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
    【四】

 源治が徳平店で無力感に打ちひしがれていた頃―、お民は石澤家の屋敷にいた。
 門前で名乗り、訪(おとな)いを告げると、お民はすぐに屋敷内へと通された。
 案内されたのは奥向きの一角、この部屋には見憶えがある。半年前、龍之助が寝かされていた場所、龍之助の最期の瞬間を見届けた座敷だ。忘れようとしても、忘れられるものではない。
 顔を見たこともない侍女に導かれてここに来てから、いかほど経ったのか。
 少なくとも半刻は待たされただろう。
 眼前の襖には四季折々の花々が大胆に描かれている。春は桜、夏は菖蒲、秋は菊、冬は椿。
 名のある絵師が描いたであろうそれを無意識の中にぼんやりと眼で追っていく。そんなことを繰り返した挙げ句、ようよう何度目かにその襖が音もなく開いた。
 お民は両手をついて、平伏する。
 嘉門は床の間を背にして胡座をかいた。お民との距離は知れている。嘉門は脇息を引き寄せ、片手で頬杖をついた上に顎を乗せた。
 お民の瞳の奥にある真意を確かめるように、じいっとこちらを無表情に見つめてくる。
 心なしか、嘉門の顔色がどす黒く染まっているように見えるのは、この部屋が暗いせいだろうか。
「さても珍しき客人が参ったものよ」
 嘉門の声にはこの事態を面白がっているような響きがある。
「一体、今更何用があって、そなたがわざわざ俺を訪ねてきたというのだ?」
 沈黙を守り通すお民に焦れたように、嘉門が唐突に口を開いた。
「そのことは、あなたさまがいちばんよくご存じなのではございませぬか」
 敢えて〝殿〟ではなく〝あなたさま〟と呼ぶ。
 わずかな間があった。
 嘉門の声にかすかに苛立ちが混じる。
「俺はそう気が長い方ではない。もって回った物言いは大嫌いなのだ。用件があるというのなら、疾く申せ」
 お民は嘉門を見据える瞳にぐっと力を込めた。
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