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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第2章 弐
「お前、それがどういうことを意味するか、石澤さまのお屋敷で何をするか判って言ってるのか」
 源治の救いを求めるような眼に見つめられ、お民は一瞬、視線を揺らした。これまで以上に重たい沈黙に押し潰されそうになる。
 お民の眼に涙が溢れた。
「―判ってますよ。私だって子どもじゃないんだから。私は、皆のためになるのなら、それで良いの。差配さんも言ってたでしょ。たったの一年だけ、我慢すればまた、お前さんの許に帰ってこられるんだもの。でも、お前さんはこんな私をもう帰ってきても女房として傍に置いてはくれないわよね」
「ずっと待ってる、お前が帰るまで、俺はここで待つよ」
「嬉しい、じゃあ、げんまん」
 お民が白い指先を差し出すと、源治もまた、そのほっそりとした指に骨太の指を絡める。
 引き寄せられるままに良人の逞しい胸に顔を埋(うず)め、お民は低い嗚咽を洩らした。
「もし、石澤って殿さまが約束を守らなかったら? 一年経っても、お前を自由にしてくれなかったら、どうするんだ?」
 耳許で囁かれ、お民は泣きながら言った。
「そんなことになったら、私は死にます。ずっと、お前さんと引き離されたままなんて、私は絶対にいや」
―そして、この現身(うつしみ)はこの世から消えてなくなっても、心だけはお前さんの許に還ってくるから。だから、ここで待っていて。
 声にはならない想いを込めて見上げると、源治が首を振った。
「死ぬな。どんなことがあっても死んじゃならねえ。俺はお前の帰りを待ってるから、ずっとずっと待ってるから」
―たとえ何年、別の男の傍で暮らそうと、俺はお前の帰りを待ってるから、必ず無事で帰ってこい。
 源治もまた、溢れる想いを込めて、お民を見つめる。
 夜が静かに更けてゆく中、二人はずっと無言で寄り添い合っていた。
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