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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第3章 参
 これから一年の日々を、お民はここで過ごすのだ。お民が想像以上に広壮な屋敷に気後れしながら門番に訪(おとな)いを告げると、すぐに門が内側から音を立てて開いた。
 躊躇いがちに一歩脚を踏み入れたお民の背後で、ギィーと軋んだ音を立てながら門が閉まる。何故か、それが二度と外の世界には戻れぬ予兆のような気がして、お民は思わず背後を振り返った。たった一つのこの門が、お民を外界から切り離し、この石澤の屋敷に繋ぎ止めようとしている。
 あの冷えたまなざしをした、皮肉げな笑みを刻む男の囲われ者になるために、自分はここに来たのだ。
 お民は改めて我が身の陥った境涯に想いを馳せ、込み上げてくる涙を瞼の裏で乾かした。
 同じその頃。
 和泉橋のほとりでは源治が寒空の下、一人、暗い眼で川の面を見つめていた。源治はまるで魂がさまよい出たように虚ろな顔で立ち尽くしている。
 その頬をひとすじの涙がつたい落ちた。

 石澤家は五百石取りの直参にふさわしい広壮な邸宅を和泉橋町の一角に構えている。屋敷は庭付きの立派なもので、庭には先代の主人、つまり嘉門の父が丹精したという四季折々の花が植わっていて、季節毎に訪れる者の眼を愉しませていた。
 その庭の片隅には離れがこぢんまりと建っている。数年前に建てられたその建物はいまだ使用されたことはなく、三間と簡単な煮炊きもできる厨房、更に湯殿までついたそこは離れというよりは、別宅のような佇まいすら見せていた。
 何年か前にその建物が新たに建てられた際、普請を任された棟梁は当主の母祥月院のための隠居所かと思った。が、当主嘉門はもう十三年前に妻を亡くし、母と二人きりの生活のはずである。
 この広いお屋敷に母一人子一人の暮らしに、わざわざ離れを建てて別居するとはお武家の方々のお考えになることは判らねえ、と、首を傾げたものだった。
 棟梁からしてみれば、これから建てる離れ一つでさえ、子沢山の夫婦が肩寄せ合って暮らす四畳半ひと間の家よりよほど広いのだ。
 しかし、この離れが棟梁の考えていたようなものでないことは直に知れた。この普請には当主の嘉門自らが熱心に当たり、棟梁にも直接あれこれと注文をつけたが、中でも彼を瞠目させたのは湯殿についての注文を受けたときのことだった。
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