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喘ぐなら、彼の腕の中で
第10章 一発KO


あんたはズルイのよ。
線引きして突き放しておきながら、その何倍もの勢いで引き寄せてくる。


………波のような男だな。


修正した図面をプリントしながら、ふいに地元の海が頭に浮かんだ。

天気によって表情を変える、その自然現象は予測できない。

光を反射してキラキラ輝く水面に魅了されて、流れに身を任せても
油断をすれば、たちまちうねりに引き込まれてしまう。


……波に呑まれないように、常に自分で警報を出すしかないのかしら。

繋げているのは体だけなのに、案外面倒な関係だな……


「芹澤さん、改装後の最終パースです。
チェックお願いします」


頭の中のモヤモヤを振り払ってから、隣りに座る芹澤さんに声をかけた。

でも、反応が無い。


「あの、芹澤さん?」

「何?」

「あ、図面の確認を…」

「今忙しくて手が離せないから後にして。
あ、田部さん資料もらうね」


え?あたしのは急ぎませんよと言った、斜め前の席の田部さんに
芹澤さんはニコニコしながら近寄っていった。


「………」


へぇ、そうきますか。

月曜の午前中までに仕上げて提出してと、私に告げたのはあなたですけど後でいいんですね。

小さく溜息をついて、広げた図面を芹澤さんのデスクに置いた。




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