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喘ぐなら、彼の腕の中で
第5章 忘れさせて


「沙月。やっぱり体調悪い?」


夜の10時。

銀座の大通りから小道に入った先にある、地下1Fのイタリアン。
雰囲気も良くて料理も絶品。

外見からお店だと分からない隠れ家的で、会社からも程よく離れているから
芹澤さんとのディナーにとても適した場所だった。


「いつもワインは軽く1本あけるのに、今日は進まないね」


視線を上げると、目の前で芹澤さんが優しく微笑んでいた。


……話しかけられていたことに、またしても気付かなかった。

コース料理を食べ終わって、お互いワインを飲んでいるけど
料理の味も、ここまで会話した内容も思い出せない。


「……ごめんなさい」


今日はダメだ、なにもかも。

莉央に中途半端にされた体の疼き
会社を出る時に亜美に言われた言葉

全身に纏わりついて、自分をコントロールすることが出来ない。


……それに……


「いいよ。
終日社内にいるのも、案外疲れるよね」


芹澤さんは普段と変わらない。

私を沙月と呼ぶし、昨日の話がまるで無かったことのように……亜美のことも言わない。


だけど私は、あなたに確認するために今日ここに来たの。
ずっとこの穏やかな時間が続いてほしいけど


………大きく、深く深呼吸をする。




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