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吼える月
第6章 変幻
 


 命を絶とうと決心していればこそ、男達の凌辱を受けた。



 その惨たらしい記憶を蘇らせるのは――

 後背に居た華やかな金より、前方に居た……冴え冴えしい銀。



 誰もを謀り惨殺しておきながら、憎悪する女に欲情した忌まわしき銀。

 金に従い、サクを見殺しにしようとした……非情な凍色。



――僕が君の部屋に忍び込めれるように、本殿の鍵を開けていてくれないか?


 シンダノ、リュカハ。キントギンニコロサレテ。


――お前を心から憎悪している男は誰だ!?



 ダカラアレハリュカジャナイ。

 リュカハギンジャナイ。


 リュカジャ……。

 
――生涯覚えておけ、僕の名を。さあ、言え、僕は誰だ!? 言うんだ!



 "リュカ"



 銀に名がついた時、ユウナが心で封じた記憶の箱が開け放たれる。



 蘇る、リュカとサクとの楽しかった日々。

 蘇る、婚礼の日を数えていた日々。



――僕は……お前が死ぬまで、憎み続ける。


 蘇る、リュカの憎悪。

 蘇る、凌辱の記憶。



 アタシハリュカニ、ニクマレテイタ。



 そして――。

 今まで逃避するように顔をそむけてきた感情――悲しみ、苦しみ、憎悪、自責、愛情……心が感じるあらゆる情すべてが……、


「見ないで、あたしを見ないでサク!! あたしは汚い、あたしは穢らわしい。あたしは、あたしは――っ!!」


 彼女という自分自身を醜悪な存在に作り替え上げた。


 醜い自分。

 だから魔に穢れて、銀に染まってしまったのだと。


 真実は、自責の念に歪められる。

 

「姫様、しっかりして下さい。姫様!?」



 そして、絶望した。


 サクの存在でかろうじて"こちら側"に居たユウナは、自分は居てはいけないのだと、もう二度と……、



「見ないで、見ないで――っ!!」



 サクの目の中に、映る価値もないのだと。
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