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吼える月
第6章 変幻
  

「俺がどんな気持ちで姫様を見ていたと思うんですか。どうして俺が姫様を蔑まなきゃなんねぇんですか。蔑むべきは、姫様に犠牲を強いて……なおかつ逃れようもない痕跡の髪色にしてしまった、俺じゃないですかっ!!」


 そして激高したサクは、ユウナを抱きしめた。

 冷たい体だった。


 このまま体温が凍り付きそうで恐くなったサクは、そのまま抱き上げて……岩風呂の中に入った。


 そしてサクは、硬質な声音で言う。


「姫様が生きる為に、あの記憶が厭わしいというのなら……俺が消して差し上げます。……俺が、姫様は穢れていないことを証明してみせます」

「サク……?」


 熱い湯で、仄かにユウナの肌が紅潮していた。

 サクは僅かに息を乱しながら、情欲の炎が揺らぎ始めたその目を細める。

 サクは、休憩を兼ねた足湯用に腰掛けられる大きな岩にユウナを座らせた。

 湯が膝下の低さになり、立ったままのサクを少し見上げる高さになる。

 ユウナは衝動的だったとはいえ、自分が全裸をサクに晒していることが恥ずかしくなり、身を捩るようにして胸と恥部を両手で隠そうとした。

 その恥じらう動きが、サクの煽ることを知らずに。


「見ろと言ったのは、姫様でしょう?」

 ユウナの耳もとで艶めいた声を出したサクは、静かにユウナの両手を拡げる。

「綺麗です、姫様。途方に暮れるほど」

 サクから出たものとは思えぬほど、恍惚とした甘い声と容赦ない熱視線を浴び、ユウナの身体は紅く染まる。


「サ、サク……っ」

「なんですか……?」


 今までのサクとはなにかが違う。


 濡れた黒い瞳。

 湯に浸かって上気している顔。


 サクから感じる熱に、湯あたりしたように身体が火照り、息苦しくなってくる。

 興奮と不安の丁度中間あたりの心境で、とくとくと心臓が波打つ。

 同時に、戦慄とはまた違うぞくぞくとするものを背中に感じたユウナは、サクと距離を取ろうと及び腰になった。


「駄目ですよ。姫様……。俺をひとでなし扱いする酷い姫様には、きっちりわかって貰わねぇと」


 一体なにをしようとしているのか。


 両手首を掴まれたユウナが不安気に瞳を揺らしていると、サクは跪(ひざまず)くように腰を落とし、


「ん……っ」


 その舌を、ユウナの乳房に這わせたのだった。
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