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吼える月
第30章 予感
 

「お嬢……」

「お姉さん……」


 あちこちから啜り泣く声が聞こえた。

 ユウナは指で涙を拭き取り、皆に言った。


「少しの間、この国の青龍の祠官と…武神将の息子をお借りします。青龍もその許可を下さり、ありがとうございます。そしてジウ殿も」


 頭を下げたユウナを、ジウが止めた。


「やめられよ。…ユウナ姫。愚息を、どうぞ頼みまする」


 今度はジウが頭を下げる。


「どうか、どうか……シバを、頼みまする!!」


 その必死さに驚きながら、ユウナは静かに頷いた。


「戻って来たら…お父さんとして接してあげてね。シバは……寂しさを抱えているの。居場所を……どうか」

「……」


 ジウは唇を震わせ、なにも言わなかった。



「じゃあそろそろ行こう。今、緋陵に出航するのに、とってもいい追い風が吹いている。良い天気だし、幸先よかったね!」


 テオンが、朗らかな声を上げた。



「じゃ皆さん、さようなら。また! イルヒも、お手紙交換しましょうね!」

「勿論さ!」

「ワシちゃんも、運ぶのよろしくね」


 ぴぇぇぇぇぇ!!


「では、ジウ殿……。俺は行きます」

「……サク殿……」

「わかっています。あいつを…守りますから」

「かたじけない。かたじけない、サク殿……」

「ジウ殿は、皆を守って下さい。ゲイが来る前に、イタ公復活させて戻ります。必ず戻りますから……」


 サクはジウの目を強く見た。


「親父みてぇに、死んだら許さねぇからな!」


 サクの震える声に気づき、ジウは何度も声を詰まらせたままで頷いた。


「あんたを頼れと親父は言った。これは遺言、約束だぞ!」


 ジウは大きく頷いた。



「では、行ってきます!!」


 手を振りながら歩き出した三人の後ろを、当然のようにユエと女とワシがついてくる。


「ちょっと! なに一緒に行こうとするのさ!」

「ユエは…お見送りにきたの」


 ぴぇぇぇぇ!!


「そう、ワシちゃんと同じ。船が出るまで一緒に……」

「じゃ、あたいも!」


 抜け駆けされないようにと牽制しているのだが、その顔はユエの笑いを誘うだけのものにしか過ぎず、ユエは笑ってばかりいた。

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