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吼える月
第6章 変幻
 

 サクの舌の動きひとつで、ユウナの体はびくびく跳ねる。

 そこに抵抗がないのは、サクが金銀と同じ"男"だと認識して敵対心を持つよりも、サクだからと安心している心地が強いせいだった。

 絶大なる信頼感。


 それを与えられるのはサクの特質でもあり……弱みでもあった。


 その眼差しが愛おしげに細められていることは、サクの悪戯のような舌遣いに翻弄されるユウナは気づかない。

 サクが必死に自らの欲望を押し殺し、余裕めいて見せていることも。


 そう、あくまでこれは悪戯のような"洗浄"の域を出ていないのだ。


 サクなりにそれは心得ていた。

 これは愛ある行為ではないと。


 ユウナに安心感を与える為の、荒療治だった。

 体に嫌悪を抱くのであれば、体からしか解放は得られない。


 ユウナの体は綺麗なのだと認識させるために、サクもまた……男としてぎりぎりの線でユウナに触れていた。


 我武者羅に触れて唇を落としたいのを堪えて。

 激しい愛を口にしたいのを我慢して。


 ただひたすら、いつも通りの態度で、ユウナの心を解すことだけ。


 サクの中の荒れ狂う"男"を見せれば、間違いなくユウナは永遠に男に対して心を閉ざす。体だけではない、心までも。


 この世界の半分は男で出来ている。

 半分がユウナの敵になってしまったら、ユウナはまた死のうとしてしまう。

 それではいけないのだ。


 ……自分は7日でいなくなる身。

 自分がいなくても、ユウナが生きられるようにしなくては。


 ユウナからの信頼感を感じればこそ、そこに女としての情がないとわかればこそに成り立つ、今の"洗浄"という名目の触れあい。


 "男"として意識して貰いたい。

 "男"として抱きたい。


 その欲を極限までに抑えるサクは、それでも満足していた。

 死ぬ前にユウナの体に触れることが出来たと。


 たとえユウナにとっては悪戯めいたものであっても、サクにとっては愛戯だった。愛しいからしている行為だった。
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