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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~


「つまり、神獣の力で強行突破は出来ない。それ以外で僕達の知恵を振り絞ったとしても、見つかってしまった場合……」


「捕まって八つ裂きだな。運良く生かしてくれるのなら、獰猛な女達の奴隷だ。なにをさせられることやら。顔の部分をひとつずつ切り取られるくらいのことは、笑いながら楽しんでやるらしいぞ、お袋の"笑い話"によれば」

 
 サクが腕組みをしてため息をついた。


 
「サク……。サラ、武神将だったのよね、緋陵の……」

「ああ、親父と駆け落ち同然にして、武神将の座は妹に譲ったらしいですが」

「あんなに可愛らしいサラが、八つ裂きになんて……」

「お袋、怒ると親父より強かったんです。親父は惚れた弱みだといってたが、絶対お袋、親父より強い!」


 最強の武神将と、それより強いと思われる元武神将。

 そのふたりがいても、死んでしまったという事実。


 そうにまで黒陵を危機に陥らせたのは――。


 サクは、かつて温和な笑みを浮かべていた…ユウナの元許婚を思い出す。

 ユウナが今も愛してやまない、ユウナとサクの幼馴染み。


 ユウナを裏切り、ユウナの父親を殺し、金色に包まれたゲイの配下となっている……銀髪のリュカ。


 黒陵を出航する際に手助けをしたのも、蒼陵でユウナを守ろうとしたのも、また…爆破される浮島の住人を逃がそうとしたのも、同じ彼。


 だがそのリュカは、サクの両親の死に関係している。

 黒陵の民の滅亡にも関係している。


 サクの妹分である、ユウナにそっくりなユマを、ユウナの身代わりにして姫に仕立てあげ、婚姻し……それを他の男の精の捌け口にと進呈したのもリュカだ。

 ユマの行方がわからない今、ユウナがリュカの元に行きさえすれば、対外的にも簡単に、ユウナはリュカの妻になれるのだ。

 当初の予定通り――。


 サクはぎりぎりと歯軋りをした。


 嫌だ。

 絶対嫌だ。


 溢れる想いは大きすぎて、苦しいほどだ。


 どんなにユウナに愛を伝えても、ユウナの中のリュカは消えない。

 どんなに激しくユウナを抱いても、ユウナはリュカの名前を口にする。


 リュカに、勝ることができない。

 自分の名前を呼んで貰えない。



 ちくしょう……。
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