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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
 

「あたし……サクが好きよ?」


 ユウナの言葉にサクの心が跳ね上がり、思わずユウナを見つめた。


「昔以上に」


 その返答はサクが期待するものではなかったが、ユウナは至って真剣な顔だった。

 サクはそこに、自分が求める"愛"はないとわかっていても、鬱屈としていた心を逸らせるだけの、ユウナの"本気"があることを悟った。


 昔から変わらぬ、まっすぐな瞳。

 サクを魅了してやまないその瞳で、サクに告げる。


「だから、サクをわかりたいと思う。リュカ以上に、あたしが」

「……っ」

「あたしは、どんなサクでも理解したいの。情けなくてもいいの、格好つけなくてもいいの。あたしにとってサクは、昔ながらの護衛役のサクよ。ハンに怒られ泣きながらも、強くなって逞しくなって、警備兵の隊長になって、知らないうちにさらに格好いい男になって、とうとうハンと同じ武神将にまでなった……あたしの隣にずっと居て欲しいひとよ。

サクだから、あたしは儀式をしたの。サクじゃなかったら、絶対儀式をしないわ。なにより、サクが傍に居てくれるからあたしは、息をしていられるの」


 吸引力があるこの瞳から、逃れられないとサクは思った。


「だから……避けないで」


 距離を作れない。

 距離を作ろうとしたことが、愚かしいことのように思えてやまない。


「あたしから逃げないで。お願い……我が儘だとわかっているけど、あたしの隣にいて。サクじゃないと嫌なの」



 自分はもう、この瞳の虜囚になっているのだ。

 初めて会った、あの時から――。
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