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吼える月
第32章 多難
 


 サクの真剣な顔を見て、ラクダが言った。


『お前の顔、どこかで見たことがある。名前は?』


「サク=シェンウ、玄武の武神将になりたてだ。俺の親父はハン=シェンウ、最強の武神将と言われ、お袋は……」


 するとラクダが突然前足をバンバンと砂に叩き始めた。


『ああ、我が国の武神将を嫁に貰いにきた、あのハン! ということは、お前の母親は……』


「ああ、サラ……こちらでの名前は、サラ=スーツェー」


 そしてサクは、赤い鞘のサラの愛刀を見せた。


『これは……やはりあのじゃじゃ馬か!! お前、あのじゃじゃ馬の息子か、これは愉快だ。イヒ、イヒヒヒヒ!』


 ラクダは、歯を見せて大笑いし始めた。


 母親が、汚らしいラクダに大笑いされるのを、サクは複雑な心境で眺めていた。


「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


 前足の蹄同士をぱんぱんとたたき合わせて、イヒヒヒヒと奇妙に笑うラクダの笑いはまだ止まらない。どうにも笑い上戸でしばし止まらないようだ。呼吸困難のように引きつった息をしながらも、まだ笑い続ける。



「わかっているということは、やはり朱雀なのか……」


 シバがぼやく。


「……ラクダになると、品が下がっちゃうんだね。僕、生まれ変わってもラクダにだけはなりたくないよ」



「イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒ!」



「なんでサラのことであんなに大笑いなのかしら。懐かしがるのではなく」


「姫様。深くは考えねぇで下さい。シェンウ家の裏事情って奴ですから」 


 サクはため息をつきながら、熊鷹に指示をした。


 ぴぇぇぇぇぇ!


 ラクダはびくっとして笑いを止めた。
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