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吼える月
第33章 出芽
 


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 倭陵大陸、緋陵国――。


 男禁制のその国は、今や砂漠で覆われた土地しかなく、目で確認できる生物は、巨大蠍と意思を通じ合える、自らを朱雀と名乗る汚らしい駱駝のみだった。

  
 "溶岩に居る炎の鳥の涙"を飲ませなくては、イタチ姿の玄武を救えない。その謎かけのようなものの意味を朱雀たる駱駝は知り得なかったが、それには朱雀の祝福を必要とするらしいことがわかった。


 しかし今の駱駝姿には、朱雀の力が一切なく、そこで玄武を助けるためには、駱駝を朱雀に戻す必要が生じた。


 難問な付加条件ばかり増える中、玄武の武神将は、どこになにがあるかわからぬこの広大な砂漠は、作為的なものなのではないかと疑問を投げかけた。

 だとすれば、神獣朱雀から朱雀の力を奪い、朱雀を駱駝にした者が背後にいる――。


 それが誰かがわからぬ中、玄武の武神将の母である元朱雀の武神将の妹を訪ねてみようとしたが、一年前にその妹が自殺をしたことを聞く。


 一年前――。


 それは、黒陵国では、妻を亡くした祠官の寵愛を受けた文官が、祠官の娘である姫と結婚が決まった年であり、


 蒼陵国では、その黒陵の文官と、彼とそっくりな顔をした……倭陵を統べる皇主の三男が同時期に現れた時期である。


 二国の異変の前には、必ずその文官が先に動きを見せている。

 そしてその文官は玄武の武神将と姫の幼なじみでもあり、姫の前で玄武の祠官を殺した男でもあった。


 玄武の武神将は、同じ時期に起きた……武神将が起こすまじき緋陵の惨事に、ただならぬ陰謀を感じるのだった。




 ~倭陵国史~



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