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吼える月
第33章 出芽
 

 神獣の真の姿はサクにもわからない。現に玄武は、イタチにも人型にもなれるが、伝承のように亀に似た姿が真実なのかと尋ねたこともない。

 だがイタチは玄武なのだ。契約をしたサクには、理屈抜きに感じる。

 だとしたら、ラクダが朱雀でも話はおかしくないのだが、よく考えてみれば、イタチは特殊なのだ。サクと先に契約した何者かと融合したから、サクの想起で形を得たのだ。

 ラクダもイタチと同種だとするのなら、ラクダに変えた者が存在するだけではなく、なにかと融合したから可能になった可能性も出てくる。

 しかもそれだけではなく、朱雀の力一切を抜き取る事も出来る強者である。それはなにかと融合したせいかもしれず、未知数だ。

 玄武のように、どんな姿であろうとも、力を持つものこそが神獣という存在となるのなら、もしも朱雀の力がどこかに移譲されていたとしたら、その存在こそが、緋陵の新たな神獣となるのではないか。

 許可を取らねばならない神獣とは、どんなものを言うのか。


 それでも――。

 イタチたる玄武に疑いを持たず、親しみを込めてくれたラクダであるのなら、たとえ朱雀の力を持たずに神獣の影も見えないとしても。

 イタチを助けるための仲間として認める限りは、目に見えているものこそが真実。


「神獣朱雀よ、この玄武の武神将、請い願い奉る」


 ラクダ相手にサクが片膝をつき、左手拳を反対側の掌にあてる……武官特有の礼を見せたのを、一同は黙って見ていた。


 大きなラクダは、サクの頼みに頷いた。

 
『あいわかった。我は玄武と青龍の力を認めよう』


 自らの力すらも感じ取れない自称朱雀は、ラクダ顔を真面目なものに変えたが、大きな鼻の穴から鼻水を垂らしたラクダの顔は、間抜け以外の何者でもない。

 それでもその顔はどこか満足気であった。

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