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吼える月
第33章 出芽
 

「だ、だけどね」

「だけど、なんですか?」


 サクがやるせなさそうな息を吐きながら、ちゅっちゅっとユウナの耳から首筋に、啄むような口づけを落としていく。

 視界の端に、顔を傾けて口づけるサクが、とろみがかったまたあの扇情的な目を向けているのを知り、ユウナの身体は熱くなって萎縮する。

「嫌?」

 端的に尋ねたサクの濡れた唇が半開きになっており、ユウナは真っ赤になって、やがて小さく頭を横に振る。

 
「こんな程度ならそうですよね、俺……おねだりされたり、もっと凄ぇことしてますから」

「……っ!!」

 斜め上から蜜をまぶしたような黒い瞳で、挑発的にユウナを見たサクは、ユウナの反応を見て口元で笑った。


「意識してます、俺のこと?」

「し、してない……」

「すげぇ顔真っ赤ですが?」

「あ、暑いからよ」

「すげぇ目が泳いでますが?」

「ほら、周りに気を配らないと!」

「本当に強情」


 サクは愉快そうに、だが扇情的に笑う。


「俺に触りたがる姫様も、すげぇ可愛いですけどその可愛さこそが、俺の理性を崩すんです。俺の苦悩すらぶっ壊して、姫様に念を押したくなる。忘れるな、俺にとって姫様は、主人であり愛おしい女だということを、と」


「な、なななな!」

 大きな手がユウナの頬を愛おしげに撫でると、ユウナは今にも溶けてしまいそうな顔をして、サクのされるがままにおとなしくなっている。

 嫌ではないのだ、サクのこうした熱を伝染されることは。

 心身が熱くて、なにかの感情が爆発しそうになっている。

 触って欲しいとすら思うその感情の正体はなんなのか、ユウナは泣きそうになるほどに切なくてたまらない。

 サクの熱に完全に染まれていないことに悔しさすら感じる。


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