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吼える月
第33章 出芽
 


 一年前に蒼陵に来たという、現黒陵の祠官。

 蒼陵に、金髪のゲイと共に現れた、サクとユウナの幼なじみで、ユウナの父である祠官を殺した男、リュカ。

 現時点、ユウナの偽者と婚姻したせいで、表向きユウナの夫となっている。
 そのリュカが前もって動いていたことにより、倭陵各地に蒔かれた不穏な種が育とうとしている。

 黒陵や蒼陵だけではなく、ここ緋陵でも、リュカが動き出した一年前に、緋陵の朱雀の武神将であるヨンガ=イーツェーが狂乱した。

 リュカはヨンガに接触したのだろうか。


「これは、一年前に作られたものなのかな……。何のために……」


 銀の男と存在と、なにか関係があるのだろうか。

 そう思いながら、石扉に目を向けたテオンの表情が曇った。


「例の溶岩はこの奥か。だとしたら、あいつらに連絡するか? 見つけたと」


 シバが怜悧な目を、テオンに向ける。


「……それはちょっと待って。もしかしたら、シバ……力出せないかもしれないよ。扉ちょっとだけ触ってみて」

「え? わっ!」


 バチバチバチ!

 扉に触ろうとしたシバが、珍しく驚愕した声を出して手を押さえた。


「身体の中から、青龍の力が放散した。なんだ、これは」

「その扉に、符陣が描かれている。蒼陵の偽りの青龍殿のような、神獣の力を封じる符陣が。符陣は、青龍殿のように力を出せなくしてしまうものもあれば、これのように神獣の力を持つ者に痛みで返すものもあるみたいだね。ごめんね、痛い可能性を僕考えてなかった」

「いや、いいが……。偽りの青龍殿って、サクとお前が言った場所だよな。あいつ、神獣の力を封じられたのか?」

「うん。だけどまあ、使う暇がないというか。とにかく忙しかったね、うん」

 テオンはサクとの冒険を思い出して引き攣りながら笑い、石扉に薄くなって見える符陣の模様を見ながら呟く。

「符陣は、かけた者が生きていなければならない。そして祠官と武神将の協力が必要だと聞く。この石の建物を見る限りは、符陣をかけた時の朱雀の武神将はヨンガだと思う。今ヨンガが死んでいて、だけどこの符陣の効力が生きているのなら、その理由はふたつ。祠官が生きているのか、この符陣に他に効力を持たせる仕掛けがなされているのか」

 テオンは扉の左右に、装飾的に高く積み重なっている石を、じっと見つめた。
 
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