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吼える月
第36章 幻惑
  

「呪詛って、まさか僕達が解いた言葉――」

 "我が眠りを妨げる者 鏡の呪いで火の鳥となす"

 "我の怒り実を虚に変え、汝の鏡の中に閉じ込める 何人たりとも鏡を進むのは許さじ"


「それは朱雀の〝鏡呪〟やもしれぬ。簡単に言えば鏡の呪い」

 その青龍の声音に、テオンは尋ねた。

「鏡って、姿を映すあの鏡?」

「ひとが使う、壊れるようなものではあらぬ。我ら神獣だけが創り出せる、輝かんばかりの光を放つ硬い石のことよ」

「待って待って、その鏡って言うのは……」

 テオン達は話ながら内部に入る。
 内部は石の柱が両側に立っており、一本道が続いているようだ。

「蒼陵の民達も創ったではないか、我の逆鱗で」

 テオンは柱に朱雀の文様が施されているのを見ていたが、驚きのあまり、すぐに頭をシバの方にねじ曲げた。

「それ、輝硬石のこと!?」

「ひとはそう呼ぶのか。神獣から作られるゆえに硬いのだ。知恵の白虎が民達に知恵として与えたために、ひとはそれを模して、粗悪な鏡などいうものを作った」

 青龍の逆鱗から、青龍殿を守る青い輝硬石を作られたのだとすれば、朱雀のなにかから、赤い輝硬石が作られてもいい。

「ということは、輝硬石の技術は白陵の……白虎の鎮護する国の民に伝えられていたということ?」

 白陵には、皇主すら耳を傾けるという「大賢者」なるものがいると、テオンは書物を読んでいたおかげで知っている。

「然り。そこから全土に広がったのだろう」

 サク曰く、黒陵には白銀の輝硬石で作られた武具を纏った、中央の兵士がいたという。

 だとすれば、倭陵の中枢に座す皇主にも、大賢者が武具に最適だと助言したのかもしれない。作り方を教えると共に。
 
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