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吼える月
第36章 幻惑
  
 
 ユウナは叫ぶ。

「サク、ありえないから! あたし達は細い道を進んできたの。それなのに、天井と地下が入れ替わるなんてことは!!」

「やっぱり、姫様も入れ替わりの可能性を考えましたか」

 サクの目が剣呑な光を宿す。

「いや、だからサク! それはありえない……」

 ユウナの目にも、岩のような壁が見えてきた。
 出入り口もない岩壁に、ラクダはまっしぐらに走っている。

 ユウナの目は、本能的な涙で濡れた。

「どうしよう、どうすればいい!? イタ公ちゃん、ねぇどうすればいいの!?」

 ユウナは目からぽろぽろと涙を流した。

 それを後ろから見たサクは目を細め、そして片手に赤い柄の刀をしまったまま、ムチのようにしなる七節棍にすると、横からラクダの身体目がけて振った。

「サク!! そんなことしたら、道踏み外して落ちちゃう!!」

 目の前には岩壁が明瞭に見えてくる。
 ユウナは恐怖にさらに涙を流した。

「ええ、落とすんですよ。一か八かで……おら、ラックー、踏み外せ!!」

 ラクダの頭が岩壁にぶつかる瞬間、ラクダはがくんと道を踏み外した。

『ばへぇぇぇぇぇ!!』

「きゃあああああ!!」

「姫様、ラックーの首に捕まって!! イタ公を頼みます!!」

 ユウナは悲鳴を上げながらイタチを強く握って、ラクダの首にしがみついた前傾姿勢を取る。

 サクは落ちる巨躯とユウナを声をあげて片手で持ち上げ、上方に飛ばす。

「きゃあああああああ!!」

 ユウナの悲鳴がまた落ちてくると、サクは今度は、ラクダの身体を腕に巻いて受け止めた。

「姫様、大丈夫ですか?」

 ユウナはおそるおそる目を開くと、また悲鳴を上げた。

「サク、なんで宙に浮いてるの!?」
 
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