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吼える月
第37章 鏡呪
 

 するとテオンは顔色を変える。

「どうしてユエが、四凶を知っているの? それは禁忌の知識だぞ!? 僕ですら本当に苦労して、ようやくえた知識だというのに」

「ユエは、物知りなの!」

 無邪気な幼女なのに、謎ばかりだ。

 本当に外見にふさわしい幼女なのか、疑わしい。

「それより、四神獣の均衡が崩れたから、出て来ちゃったんだね。そりゃあ青龍ちゃんの力を持つシバちゃんは美味しそうだものね。きゃは!」

「納得するなよ! 笛で抑えて……」

「無理」

 ばっさりと切って捨てるユエは、とても無慈悲な大人びた顔をしていて、恐ろしさすら感じる。

「魔の親玉じゃあ笛では抑えられない。ここに、四凶を抑えられる神獣ちゃんか、神獣の力を持つサクちゃんがいれば別だったのに」

 ここにいるのは、ユエと、青龍の力を持たないテオンと、ただの熊鷹だ。

 自分は、ここでも役立たずだ――。

 テオンは屈辱に唇を噛みしめた。

 こんな会話のうちにも、シバが瘴気に取り込まれている。
 なにかしなければと焦るのに、テオンは策を講ずることが出来ない。

 自分にあるのは頭だけだというのに、頭が動かない。

 考えろ。
 考えろ。


「……ああ、シバちゃん……負けちゃった」

「!!!!」


 シバにまとわりつく黒い触手はない。
 
 それらがすべてシバの体内にいるのだということがわかったのは、海を思わせる輝くような美しい青髪が、漆黒に煌めき始めたからだ。

 凶々しいほどに美しい、闇の色。

 ゆっくりと開かれた双眸は、あの赤き月を思わせるような真紅に染まっており、テオンはぞくりとした。
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