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吼える月
第37章 鏡呪
 
『ふむ。鏡が悪しきなにかを取り除くものであったのなら、なぜ四凶が入り込めたのか、ますますわからぬ。ここまで大がかりな罠を作っておるのなら、当然退魔の術も施していそうなものを……』 
 
「神聖でもないだろうよ。なにせ〝呪い〟なのだし」

 そしてサクは、ずっと無言で歩いているシバを見た。

「なあ、シバ。お前達の方は……」

 だがシバはそれには答えず、深刻そうな顔をサクに向けると、神妙な声をかけた。

「なぁ、サク。オレを殴れ」

「は?」

「オレがしっかりしていれば、魔に取り入られることもなかった。オレが弱かったからだ。オレが……」

 シバは今までずっと、自責の念に囚われながら歩いていたらしい。 

 テオンにすぐに赦しを請いたくてたまらないのに、テオンは現在体力回復中だ。

 行き場のない自噴と、そしてユウナへの恋心を自覚したばかりか、サクとの閨を幻で見せつけられていたために危機に陥ったシバとしては、以前のようにまっすぐにユウナを見ることが出来ず、色々と考えた末に、ユウナの守り人による制裁を望んだのだ。

 だがサクは頭を横に振った。

「俺はお前にどうこう出来る立場じゃねぇよ、シバ。俺だって四凶のひとつに、食らわれようとしていた」

「え……」

「姫様がリュカを選び、俺は必要ないと切り捨てられた時、俺は存在価値がなくなってしまう。それだけの危険の上で綱渡りをしていたことに、気づいていなかった」

 自嘲気に笑うサクを見て、シバは哀れんだ眼差しを向ける。

 シバにとって羨ましい立ち位置にいるサクとて、彼なりの気苦労も不安もあるのだ。
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