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吼える月
第11章 儀式
 


 見たいはずがない。邪魔すらしたくない。

 息子の……睦み合いなど。


 悪趣味もいいところだ。


 だがそこに命が掛かっているのなら。

 公開的な性交の屈辱を、耐えて貰うしかないのだ。

 サクにも、ユウナにも――。


 本当に、サクはとことん安らいだ環境に恵まれない。

 我が子ながら不憫すぎて涙が出そうだ。


 だが、これ以上ない危険を突破してきている、強運の持ち主なのもまた事実。


 ならば――。



「また凌ぎなさい」



 愛する女性を護るのが、息子が望む生き方なのなら。



「強くなったのなら、怯むんじゃない」



 あんたは、どんな苦難をも好機に変えてきた、父さんと母さんの子。

 神獣を1日かからず内に抱えられたあんたなら、切り抜けられないはずはない。



 サク=シェンウ。

 次期、最強の玄武の武神将よ――。



 サラは、わざと足音をドタドタとさせて稽古場の建物の中に入る。

 そして乱暴に戸を叩き、開けた隙間から指輪を投げ入れ、口早に叫んだ。


「10を数える間に至急"ユマ"につけさせて!! 疑問を持つことも口を開くことも、一切を禁じるわ、"タイラ"!! いくわよ、10、9、8……」


 0まで数えると、サラは大きく息を吸い込んで一気に戸を開け、わざと大きい声を発して観客を呼び込んだ。



「さあ、タイラを貪る色狂いのユマを……ご確認下さいっ!!」





 その部屋に向かう兵士達は、誰も気づかなかった。

 浮かぬ面持ちのリュカが、重い足取りで距離を拡げていたことを。


 そして――。

 リュカの後ろに控えて立つ、渋面のハンの頭の上から、緩慢な動作を取り返していた小さな亀が消え……代わって食いちぎられたネズミの尻尾が数本残されていたことに。




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