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吼える月
第14章 切望
 

 手が、燃えるように熱い――。

 今まで何度も繋いできた手なのに。


 この手が、自分の体を弄り……。

 薄い記憶を辿ろうとしたユウナはぶんぶんと頭を横に振り、あれは"治療"なのだと必死にその残像を追い払う。


「どうしたんですか、姫様。虫でも飛んでいますか?」

「む、虫?」

「……ねぇ、姫様。なんでそんな嫌そうな顔で胸元を押さえるんですか。そこまで嫌そうにしなくたって……」

「だってサク。酷いのよ、虫の痕。爛れてこないようにサラに薬塗って貰ったけれど、サクだってあんなのに刺されたら絶対絶叫ものよ」

「俺、姫様の痕跡であれば嬉しい悲鳴ですけど……って、なに胸元を覗き込んでるんですか!!」

「どうなっているのか気になって覗いただけよ。自分の胸なんだからいいでしょう? サクは見なくてもいいわよ、いいってば!!」

「そこまで嫌がれるとはどんな状態になっているのか確かめようかと。今後の参考に……いえこちらの話。今さら照れなくてもいいじゃないですか。"洗浄"と"治療"を、したのは誰だと思ってるんですか」


 サクはむぅっと口を曲げて、ふて腐れる。


 "洗浄"

 "治療"


 さらりとサクから零れ落ちたその単語。

 さらりと……サクには通過できる"触れあい"。


 "治療"をしたこと。

 サクが男らしく変わったこと。


 治療に至る自分の有様がどんな危険な状態だったのかは、風呂場でサラが教えてくれた。


 胸に出来た邪痕が消えたのが、サクが呪詛を鎮めた証拠なのだと。

 鎮呪するためにサクの外貌が変わってしまったほど、激しい呪詛をかけたのは、リュカだということも――。


 リュカが死ぬ方法以外に消せぬ呪詛は、また発作のようにいつ起こるのかわからないらしい。その度にサクの世話になるだろうことも、十分に理解出来たつもりだった。


 だが身の回りに起こっている事実に、当惑して動けない。



 従僕としてサクは、主のユウナを助けただけ。

 それ以外の意味などないのだ。


 異性だと意識する方がおかしい。

 だからサクは引き摺っていないじゃないか。


 治療、治療……これは治療。

 意識すべきことではない――。



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