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吼える月
第14章 切望
 

 輝硬石で作られた武具には、ところどころに囓られたような痕が見えた。

 そして顔の頬にも、肩にも……肉は削げ落ち、骨が見え――。



「姫様、これは……生ける屍です。

"餓鬼"になりかけているんでしょう。

これから、失った足でもにょきにょき生えて、骨と皮だらけのお年寄りになるんですかね? なんだかそれを見てみたい気もしますが……そんなゆとりはねぇですね」


 軽口を叩くサクの顔は険しく、余裕さはない。

 未知数の存在に対して浮かぶ念は、ただ…警戒だけだ。


 どうみても絶命していておかしくない状態なのに、"それ"の虚ろな目には、怪しげに揺れる生の光が消えていない。



「……じ……ぃ……」



 生きている――。

 そんな姿になっても尚、サクとユウナを見つけると、喉奥を震わすだけのような片言の言葉を漏らしながら……両手で水を掻き分けるかのようにして前進してくる。


 草を血に染め、腐った臭いを放つ臓物を引き摺らせながら、ずずず……と、重い音をたてて。


「…ひも……じぃ……」



 立ち止まって身構えるサクとユウナを射程距離におくと、突如それは口を大きく開けて、ありえない跳躍力を見せて飛び跳ねた。


 前に立つ、サクに向かって。



「きぇぇぇぇぇぇぇっ」



 それは……馴染みある甲高い奇声。

 どこまでも殺気に塗れる……ひとならざるものが放つ獰猛な音声。



「サク――っ!!」



 ユウナは悲鳴を上げた。


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