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吼える月
第14章 切望
 

『……小僧。またお前に貸しだ。お前の父と約束をした手前もある。ここは我が直々に、初心者には難しい…遠隔的に力を使う術を指南してやる。父に力を返すではなく、お前の力で父を助けるのだ』

 サクは驚いたように目を見開いた。

『ふぅ、出来の悪い奴を見捨ててはおけん。本来、神獣は力の行使者にここまで介入はせん。我の力を使えねばそれだけの者だと、こちらが見捨てるまで。だからありがたく……』

「……どうしたんだよ、その大盤振る舞いは。ネズミ食い過ぎで狂ったのか? ……っていうか、その小せぇ頭に脳みそはあるのか?」


 サクの無礼な言葉に応じたのはユウナだった。


「失礼ね、あたしはネズミなんか食べないわよ!! それにこう見えても、あたしに脳みそはちゃんとあるわよっ!!」

「い、いえ姫様のことではなく……お前、今までひとをいたぶって喜ぶ、情け容赦ねぇ冷酷非道な奴だったのに、なんでいきなり……うわわ、やめろよその"シャーッ"っていうの!!」


『我は四獣においては一番慈悲深い、穏やかたる神獣なるぞ!! その我を、凶悪な彼の者と"合成"させた不届き者は誰ぞ。誰ぞ!!』


「あたし、シャーッなんてしてないわ、情け容赦ない冷酷非道なんてひどい。今までそんな風に思っていたなんて」


 ユウナが傷ついた顔をして、目に涙を溜めたのを知り、サクは慌てた。

 ユウナにイタチの声が聞こえないだけに、気づかぬうちにユウナとの会話が成り立ってしまっていたらしい。しかも悪口雑言の。


「ひ、姫さんではねぇです、そのイタ公のことです。ええ、姫さんにしがみついている、その小せぇ奴のことです!!」

「胸もとに張り付いている、可愛いイタ公ちゃんのどこが"シャーッ"?」

「胸元……姫様の胸元だと!?」


 現実と幻像。

 大きさの差違は、微妙にサクの琴線にひっかかる。


『小僧。つべこべいわず、とりあえず港が見える崖まで行け。行き着かねば、小僧の父は危険だぞ。水……とにかく水があるところへ!!』


 玄武は水の神でもあれば。


 サクは一筋の光明を見た気がして、嬉々として走る。


 軽やかに、疾風のように――。


 まるでそれは、山を駆け上る……翼が生えた虎のような動きだった。




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