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吼える月
第15章 手紙
 


――きゃはははは。


 確かにあの子供はユエと名乗った。

 だがそれが名前なのかどうかはよくわからない。

 あの男装の女は"お嬢様"としか呼んでいないのだから。

 だがあのふたりは只者ではないことは間違いなく。



「……だったらなんだよ?」


 事情が掴めないなりに、サクは話に乗ってみることにした。


 すると兵士達は片膝をついて、慇懃にも頭を垂れたのだった。



「これはご無礼をつかまつりました。どうぞお通り下さい」



 それは呆気ないほどに。



「え、いいのか?」

「い、いいの?」



「はい。我ら近衛兵、皇主の命こそすべて。それに勝る規則はありませぬ」


 中央の兵士達が誇る、皇主に対する堅すぎる忠誠心がサク達に味方したらしい。


 ちらりと後方を振り向けば、大砲の傍に隠れていた兵士達も同様に傅(かしず)いている。


――きゃはははは。


 どこからか笛の音が響いている気がする。

 本当に餓鬼を抑える効果でもあるのだろうか。

 ……餓鬼は港に現われる気配はなく。

 
 あのふたりのおかげで散々な目にあったが、いいものをくれたかもしれない。あのふたりの正体がなんであれ、この木札の正体がなんであれ。


「では――」


 サクは堂々とその横を横切り……。



「だから待て待て待てっ!!」



 慌てて飛び跳ね、出航しつつあった船に飛び乗った。


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