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吼える月
第15章 手紙
 

 やがてサクは、甲板に丸めて捨て置いていた紙を拾い、びりびりと破いて海に散らすと、続けてかつてリュカから貰った腕輪を外して、海に放り投げた。


 邪痕の消えたサクの腕。


 その意味する事実を、

 彼に向けられた両親の愛を、


 ……ユウナは知らない。


 ただわかるのは、サクが海に投げ入れたのは、ただ単に棄てただけではないということ。もっともっと特別な意味が込められているということ。



 それは――。


 リュカに届いて欲しいと願う、惜別の想いなのか。

 この先は敵だという、宣戦布告のものなのか。


 それとも――。


 広大なる海を通して誰かに贈った……餞のものだったのか。


 そのどれもだったのか、そのどれもではなかったのか。


 ……ユウナにはわからなかった。



 餓鬼を阻む海の壁が、サクが作り出したものと信じてやまぬユウナには、次第にリュカが小さくなるにつれ、能面が外れかけた素顔の彼から、焦がれたような視線が注がれていたことも気づくことなく。


 そしてサクもまた、リュカがなぜ自分達を助けるような真似をしたのか、そしてここに至るまでに彼がなにをしでかしたのか、リュカの行動の意味も気づくことなく。
 



 生まれ育った国の港が小さくなる。

 そこに佇むのはリュカただひとり――。


 まるで惨劇の孤島にリュカひとり取り残すような、妙な心苦しさと寂寞感をふたりは感じた。


 あれほど傷つけられても、裏切られても尚、断ち切れない想いがあった。


 それでも、生きるためには。

 死んでいった者達に報いるためには。



 リュカの未練は断ち切らねばならないのだ。

 笑い合い、互いがなんでも分かり合える……かけがいのない存在であったはずの過去を、まやかしだとしたのはリュカなのだから。




 潮風が……船上のふたりの髪を揺らした。

 それは追い風でもあり向かい風でもある、どこか懐かしく、どこか底冷えする……新たな風の温もりだった。




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