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吼える月
第15章 手紙
 

リュカが姫さんに目撃されたいと望んで、事前に祠官にそう仕向けていたのか?

だったらなぜリュカは、部屋でリュカを待つようにと姫さんに指示してた?

仮に「願いを叶えるためのジョウガの箱」を開けるのが姫さんの胎内にあるからと、祠官を殺した後姫さんの部屋で情事を行う予定であったとしても、今までのリュカから思えばなにか段取りが悪い。

だから結局ゲイとかいう奴も乗り込んできたんだろう?

まるで、予想外のなにかに邪魔されたかのような……そんな不手際さを感じるんだ、俺は。


そうやって色々考えれば。

どうも俺達が見て聞いた事象は、真実を構成する表面のさらに上っ面だけのような気がしてならねぇんだよ。



なぁ、サク。


リュカは……お前だけを認めていた。

姫さんを愛していた。


そのリュカが、本当にお前達を裏切ったのか?

やったことは非道で許されねぇ。


だが、そこに意味はなかったのか?

本当に怨恨から、しでかしたことだったのか?


最初からお前達に情などなかったというのなら。

なぜ黒崙で姫さんを抱くお前を、リュカは兵士達から庇った?



リュカは言っていた。


"この世は、いつまでも僕には残酷すぎる"



それは、この世の在り方にリュカが満足していないといっているに等しい。

栄華を極めて、背中も見せられる友も居て、好きな女を妻に娶れて、次期祠官という立場に居ても、それでも全てをなくしてもいいと思えるような、そんな"なにか"に……リュカは囚われているんじゃねぇか。


それは、過去虐げられたという…ちっぽけな私情ではねぇ気がするんだ。

俺はな、いたぶられた記憶は、既に……リュカの中で昇華されている気がすんだよ。

お前と姫さんの存在によって。


だとしたら、リュカが祠官を殺した理由は復讐ではねぇ。


彼は……"なにか"を知り、それに囚われているんだ。

それはきっと、彼が憂う"この世"を構成する不条理さなんだろうと思う。


それは一体なんだ?
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