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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

 ユウナが夜寝ていても、朝起きていても。

 サクは鍛錬をしていた。


 その間ユウナはひとりきりだ。


 蒼陵国に到着までには時間がある。


 部屋の外を探険したい。

 甲板から風景を見たい。


 好奇心旺盛なユウナには早く探索したくてうずうずしていたのだが、それを口に出す前にサクに言われてしまった。

 鍛錬中、頼むから部屋に居てくれと。

 すぐすませるから、自分の目の届く範囲にいて欲しいと。


 確かに状況的に、自由が許される身の上ではなく。

 サクの鍛錬など昔からよく付き合わせられて苦にはならないから、おとなしくずっと部屋でサクの鍛錬を眺めていた。



――姫様、食糧をわけて貰いました。ほっかほっかのおかゆですよ。


 部屋に食事を運んできて、自分と食事をする時はさすがに休んでいるが、それ以外はぶっ続けである。


 そして時折、頭の上に乗せた子亀になにやら話しかけている。

 話している分には元気そうで、まだ体力はありそうなのだが、人間である自分とではなく喋らぬ亀と語るあたり、疲労過ぎてサクの思考がおかしくなってしまっているに違いない。

 幾ら亀と仲良しであろうと、一方的な会話を延々と続けているのは、傍目からは珍妙すぎる。



「……少しくらい休んだら?」

「お構いなく」


 それでもこちらの声も届くようで。

 ユウナは寝台に腰をかけながら、サクを見下ろして声をかけた。


「寝てないでしょう? 寝台使っていいわよ? あたしもう寝ないし」

「姫様の甘い匂いつきの寝台でなんて、妄想炸裂して寝れませんから、何も考えずにこうしている方が気分爽快でいいんです。これからすべきことも見えてきますし」


 声が動きすぎて、内容まではわからないが……拒まれたようだ。

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