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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
  

「いや、そうじゃないの」

「じゃあなんですか。なんでそんなに気まずそうなんですか」


 依然優しく抱きしめたまま、サクの口調だけが荒々しく。


「あ、その……。ん~……、あのね……言いづらいんだけれど」

「……取り消しは認めませんよ」


 サクの大きな手が、ユウナの髪を優しくまさぐる。

 口に出せぬ言葉の代わりに、その手が伝える。


 愛おしさを――。




「武神将って、主と結婚しちゃいけないはず……。

主以外は許されているけど……」





 ぴたり。


 サクの手が止る。


 そしてそのままサクは、ユウナを放り出すように後ろに仰け反った。



「……はあああああ!?」


 その顔はショックのあまり顔面蒼白だった。



「まさか、だから姫様、了承したとか!?」

「いえ、今ふと思い出して……。前にハンがそう言ってたことを」

「親父が!?」


 サクは泣き出しそうな悲痛な表情で、慌てて懐から『武神将の心得』と書かれた、黒崙から旅立つ間際にハンが書いた手紙を取り出し、忙しく視線を走らせた。


「書いてませんよ、そんな大切なことどこにも!!」

「え……? だけどハンがそう言ってたのよ? だから武神将と祠官は同性が多いのだと。かなり昔だけど」

「聞いてねぇですって!! そんな重要なこと!! 大体親父がこの案を……」

「サク、ねぇこれ!! これは……染みじゃないわ。小さな字よ!!」


 ふたりは頭をくっつけあうようにして、手紙の最後を目を細めて真剣に覗き込む。


 最後に、文字が書いてあった。

 小さく、小さく……。



『裏を火にあぶってみろ』



 慌ててサクは、壁にかかっている蝋に火を灯して、手紙を炙った。



「見て、サク!! 字が炙り出て来た……っ!!」



 そこにあったのは――。

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