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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 
「これ、幾らなの?」

「売れないよ、だって売ってはいけないものだから。ごめんね」

「お願い、売って? お金なら……あら」


 姫育ちのユウナは、目的のものを買おうとする意志がないかぎりは、いつも財布というものを持ち歩かない。

 揺籃においても、急になにか買い物が出来れば、いつも金を出すのはサクやハンであり、衝動買いというもの自体、ユウナはしたことがなく。


「なに、お姉さん!! お金がないなら、だめ。帰って、話にならないし!!」

「ちょっと待って、サクに言ってお金を……。だけどサクに言ったら、ばれちゃう……。どうしよう……」

「なに、そのサクって言うの、お姉さんの恋人? 旦那?」

「こ、ここ……恋人じゃなく、ぶじ……」


 武神将……言いかけてユウナは口を噤(つぐ)んだ。

 こんなところで安易に口にしていいようには思えなかったのだ。


「恋人でもないなら駄目だね。旦那だったら、まぁ…考えてあげなくもなかったけれど」


 欲しいその腕輪を袋に仕舞い込もうとする少年の手を、慌ててユウナは掴んだ。


「だ、だだだ旦那なの!!」

「え?」

「サクは、だだだ旦那なの!! 今新婚旅行なの。だから記念に……」

「なぁんだ、そういうことは早く言ってよ」


 少年は腕輪と共に、小刀を渡した。

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