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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

 今回の原因は、サクの言いつけを守らなかったからというよりも、髪を勝手に短く切ってしまったから……の気がするのだ。

 いつもの喧嘩とは、なにか違うから。


 サクは――。


 髪が長いから、自分を女扱いして嫁にしたいと言っていたのだろうか。

 髪が短ければ、話もしたくならないほど不細工なんだろうか。


 武神将としてあれほど心熱くさせる懇願をしてくれたのに、それは髪とともに去りゆくだけのものだったのか。

 髪だけしか自分の価値はないのか――。


 怒り以上に、女の魅力がない自分が哀しかった。


「髪がなによ、髪なんて放って置けばただ伸びるものじゃないの――っ!!」


 走る。

 走る。


 無我夢中で走るためにユウナは気づかない。

 足元に走る縄の存在を。


 そして――。


「姫様っ!!」




 転ぶ――そう思った瞬間。

 追いつきそうなサクが手を伸ばした瞬間。



「きゃああああああ!!」



 傾いたユウナの身体は、サクの手をすり抜けて突如宙に浮いた。



「姫様!?」


 サクの頭上よりさらに高い位置へと。


 ユウナの足に巻き付いた縄が、彼女を逆さ吊りの状態で……帆を張る柱の頂点へとするすると持ち上げていたのだった。

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