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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

「はあ? ジウ殿の息子はヒソク殿じゃあ……」


 武闘会で戦ったことがないにしても、サクは遠目で何度か見たことがある。

 ジウがよく嘆いていた、決勝戦に進出できない弱い息子を。

 ぶるぶるといつも小動物のように震えていたイメージがある。


「ああ、それは次男だよ。あたい達の兄貴は長男。強い強い……ジウの血を引いたギル様さ」


 長男の噂はサクは訊いたことがなかった。


 武闘会にも出ていなかったはずだ。

 ハンの話題にも上ったこともない。


 ジウ並みに強いのなら、どこかで噂は入ってきてもいいはずだ。


「姫様は、ジウ殿の長男を御存知で?」

「いいえ。あたしは……武闘会で見かけるヒソク殿しか、ジウ殿には子供はいないと思っていたわ」
 

 なぜ、ジウはヒソクのことしか口にしなかったのか。

 なぜ、ギルは武闘会や表舞台に出ていなかったのか。


 強い息子であるのなら、ジウが喜んで参加させようものなのに。


 いやそれよりも。


「あのジウ殿が……息子が窃盗まがいの集団の長になっていることを、黙認しているのか!?」


 ハンがサク達を託すほど、ジウは潔癖で曲がったことを嫌悪するのだ。

 情に厚く、熱血漢で、戦えば獰猛。


――時々暑苦しいよな、ジウ将軍は。顔の通りに。


 ジウをよく知る父ですら苦笑するほどの、まっすぐすぎる男であったはず。


 それがなぜ?




 テオンとイルヒ、ふたりの表情がすっと冷え込んでいた。

 それは怒りを超えた、憎しみに近いもの――。



「黙認? なにを言っているんだよ、猿。あたい達がこんなことをしているのは……」

「すべてジウという武神将のせいなのに」



 サクは思わず目を細めた。


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