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吼える月
第17章 船上2
  

 リュカではなく俺をみろと、強引に怒鳴り散らしたい"男"の自分が、潮騒のように胸を急き立てる。

 だがどうしてもユウナのあの泣き声が耳に付くのだ。


――リュカああっ!!


 自分がいない時に、慟哭していたユウナ。

 それを自分に隠そうとしているユウナ。


 そこまでユウナを追いつめたのは、自分が気持ちを言ったからではないだろうか、と。

 武神将という、せめて――自分としか持ち得ない…結びつきを早急に強く求めすぎて、追いつかないユウナの心が悲鳴を上げてしまったのではないかと。

 自分のせいだと――。





「姫様……"忠誠の儀"、延期しましょう」





 時期早々だったのではないか。

 浮かれて懇願した自分に対して、後悔の念が渦巻いていた。


 まだ、ユウナの武神将にはなれない、と。



「そうね、この船では……」

「いえ、場所がどうのではなく」


 ユウナの目が訝しげに細められる。


「あたしと…儀式をやるの、迷っているの?」


 サクは答えない。

 答えられようがない。


 ユウナと結びつきたくて、自ら懇願した気持ちは変わらない。

 昔から、ユウナが欲しくて欲しくてたまらないのだ。

 武神将など、口実だ。


 誉れある武神将の名を出しても、ユウナを縛りたいのだ。
 
 離れないという確証を欲しくて仕方が無いのだ。

 
 それでも――

 自分は鬼畜ではないから。

 ユウナの心に悲鳴を上げさせてまで、自分の気持ちを押しつけられない。


 この先、ユウナがやはりリュカが好きで、サクとは生きられないと言われるかもしれない。その時、忠誠の儀をしていなかったらそれまでだ。忠誠の儀をしていれば、どんな時でも自分が"武神将"である限り、大義名分として傍にいられる。……例え恋心は手に入れられなくとも。

 そう、弱い自分の保険でもあった。


 それでも、ユウナの心が泣くのなら。

 ここは押し切りたくない――。
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