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吼える月
第17章 船上2
 

 ユウナの柔らかで熱い唇とその舌先が肌を弄るその感触。

 その口から漏れる声と吐息で、くらくらする。


 ユウナで満たされていく身体。

 しかしまだ満たしきれない心。


 幸福と欲求の狭間で、サクはただユウナを抱きしめ、もどかしげにユウナの髪を弄る。

 愛おしげにその頭を引き寄せ、頭上に唇を落とす。

 その表情は恍惚としながらも、自制心と戦う苦悶のものだった。


 泣き出しそうにまでに耐え偲ぶ男の表情に、ユウナは気づかず。


「ぁ……っ、ユ……っ」


 思わず口に出しそうになった愛しい姫の名前を、サクはぐっと唇を噛みしめて押し殺す。


 ユウナに、男として自分が愛されていたのなら。

 ああ、この場でユウナを抱くのを許されただろうに。

 男として意識し始められても、まだほんの始め。

 それは恋愛には及んでないことは、ユウナと身体を繋げて愛を確かめ合う段階には至っていないことは、十分にわかっているから。

 ユウナが反応したのは、女として愛されることであり、どこまでも受動態。そこに能動的なユウナの女としての心情がない限りは、幾ら告白してもその形態は今までとは変わらない。

 変わったのは、それでも好きでいたいという、自分の姿勢だけだ。


 嫋やかで、甘い香りがするこの身体を、無限に広がるこの蒼天の元……自分のものだと叫びながら、心ゆくまで抱けたのなら――。


 サクは片手でユウナの頭を抱きしめながら、反対の手を……空に懇願するように伸ばした。


 一方的な恋に囚われ続けるこの苦しみから、早く解放されたい。

 自由にユウナを愛したい。


 ……だがそれができない。


 ユウナが愛撫する首筋を中心に、身体の熱は留まりを知らず益々熱くなり、その熱は、どんなに自制していてもあらゆる場所に拡散されていく。


 ……男としての自己主張を始める部分が、芯を持っていく。


 抱きたい。

 抱きたい。

 抱きたい。



 だけど……抱けない。



 愛がないうちは、ユウナを抱けない。

 愛が通い合わずに抱くのは、ゲイと同じだ。

 盛った犬と同じだ。


 好きだから、我慢出来る。

 本当に好きだから――我慢しなければ。

 大事に、ユウナとの恋愛を育てていくためには。

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