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吼える月
第17章 船上2
  
「洗浄……ねぇ?」


 身体の敏感な部分を弄るのは洗浄だと、そう教えたのはサクだ。

 だがサクは今、義務的な"仕事"とされる我が身を憂えていた。


 わざと焦らしたのは自分。

 そうでもしなければ、己にある熱く鬩ぐ欲をやりすごせられなかったからだ。


 加虐的な部分を強めて、ユウナを困らせることで、気を紛らわせていたのだ。……ユウナを深く貫きたい、牡の衝動を。


 それによってユウナが望んだのが、サクという個人ではなく快楽だけかと、そこに落胆した気分に陥ってしまったのは……矛盾。

 サクもまた、ユウナと共に快楽に耽りたい欲をもてあましながらも、相反する理性によって矛盾を抱えていた。

 禁欲してまで永遠を望みながらも、享楽に耽ってふたりで朽ちてしまいたい……刹那的激情がある。


 ユウナの羞恥を高めて、多大な快感を一方的に与えてやろうとしていたはずなのに、そこに自分を感じて貰いたいと願う……おかしな独占欲が顔を出す。


 所詮本能は、両極にある理性で説明などつかないのだろう。

 複雑で混沌としていて、……だけど単純で。


 そう――。


 本能も理性もただ、ユウナの"愛"だけを求めているのなら、それゆえに複雑さは単調に彩られた、逆説的なものへと変わる。


 本能を満足させられるのは、理性が求めるものだと。


 それは、"愛される"こと――。



「ねぇ、サク……

あたしを、愛して?」



 愛されたいと願うのは、愛しているの裏返し。

 そう思えばこそ――。



「お願いサク……。意地悪しないで、あたしを……愛して?」



 ぞくり、と。


 愛しい女性の哀願に興奮を覚えるだけ。

 思わず声が出てしまいそうなほどに。


 錯覚する――。


「こんなこと……サクにしか言えないの。サクだから……わかってくれるでしょう? サク……、お願い」


 自分に愛されたいと願うユウナは、自分を異性として求めているのだと。



「サクに……愛されたいの」


 "サクを愛しています"



 どくん。


「……っ」



 サクの身体に、至福のような快感が走った。



 錯覚でいいのだ。

 刹那でもいいのだ。


 それでいい――。

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