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吼える月
第18章 荒波
  

「大丈夫――っ!? もう心配ないからね、皆よく頑張っていたわね――っ!!」



 そう――。

 大人のいない子供だけの中で、こんな危機の中を今まで闘い生き抜いてきたことを称賛した上で、あの和やかな輪の中に入ろうと。

 サクの連れなのだから当然、輪に入れて貰えるものだと。

 ……黒陵で、誰もに笑顔で招き入れられることに慣れ切っていた姫は、姫の肩書きが通用しない場所での、己の立場を見誤り、さらに子供だからと軽視していた。


 柔らかだった子供達の目の色が変わった――。



「……っ!?」


 子供達の目から迸るのは、大人顔負けの殺気だったのだ。


「僕達を見たものは生かすな」

「殺せ」

「殺せ」



「待てこら。このひとは怪しい者じゃねぇ。俺の連れだから……」



「この猿みたいな素早いおっさんはいいんだ、俺達を助けてくれたから。だけどお前はなにもしていない」


「――っ!!」


 ユウナははっと息を飲んだ。


 そうだ、自分はただ見ていただけ。

 サクとは違う――。


「そんな役立たずな奴なんか、しかも男の海に出張る"忌まわしい"女なんか……」

「殺しちゃえ」

「殺せ」

「殺さないと」



 それはまるで、強迫観念に取り憑かれたかのような狂信者のようで。



 そんな時だった。


「ダメダメダメっ!! お嬢はいいひとなんだ、あたいを助けてくれたの!! だから殺しちゃだめ――っ!!」


 傷だらけの顔で、イルヒが横から跳ねるように飛び出て来た。


「なにか聞き慣れた声がしたと思ったら!! なんでここに来たんだよ、猿もっ!!」


 そんな悲鳴じみた声を擁護するように、追いかけるようにして縄を持って現われたのはテオンだった。


「皆、このひと達は僕達に害は加えない!! だから掟の対象外で考えて!!」


 子供達はざわめいた。


「テオンが言うならな」

「ああ。テオンはイルヒみたいに嘘つかないし」

 テオンほどの信用がないらしいイルヒは、悔しそうに唇を噛んでいる。

 ふたりの口添えのおかげで、場から殺気が薄れ始めた時だった。


「掟に逆らうことは許さぬ」


 冷ややかな声がしたのは。



「シバっ!」


 焦った声を出したのは、イルヒだった。





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