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吼える月
第18章 荒波
 

「早くカタをつけて戻ってきますが、お袋の刀は姫様に預けます。できるだけ注意は配るつもりですが、万が一不測の事態が起った場合、使って下さい。刃物の扱い方は覚えてますか?」

「ええ、シェンウ家で縦切りをしたら勘は戻ったわ。だから大丈夫」

「縦切り?」

「いえいえこちらの話。わかったわ、サク。私はサクが帰るのを信じる。変なのがきたら、これで縦切りだけではなく、ざっくざくぐっさぐさみじん切りにしてやるから。子供達のこともあたしに任せてっ!!」

「なんか料理と勘違いしているような気もするけど……では俺は行ってきます。おい、お前ら!! シバと俺と姫様がお前ら守ってやる。だからびーびー……」


 "泣くなよ"


 それを言い出す前に子供達は泣いていた。



「行かないでよ」

「恐いよっ!!」


 顔面蒼白の子供達が一斉に泣き出し、サクは苦笑してしまう。



「聞こえないのか、そこのでかいの!! オレの刀を盗む気か!? 早く返しに来い!! 怖じ気づいたのか!?」


「なぁ、俺を盗人呼ばわりするあの盗人がうるせぇんだ。お前達はひとりじゃねぇ。ここでじっとしていろ、な? すぐ終わる。大丈夫だから」


「嫌だよ~」

「恐いよ~」


「猿、恐くないの!?」


 その時、怯えながらもまっすぐとした瞳を向けたのはテオン。


「テオン、誰かを守ろうとする時には、恐い恐くないなんて私情は二の次だ。お前も男なら、守りたいものを守るために必死になれ」

「………」

「お前にも守りたい奴はいるだろう?」


 サクの男気を感じ取ったテオンは、真剣な顔で頷いた。


「――うんっ!! お姉さん、イルヒ、皆!! 僕達は僕達で出来ることを頑張ろう!! 船が沈まないように、そうだっ、倒れそうなあの柱をなんとか補正して固定しよう。僕達が出来る戦い方をしよう!!」

「ええ!! それはいい考えだわ。ここにいる子達と全員で協力すれば」

「うん、そうだね、お嬢!! さあ、皆頑張ろう」


 しかしそれに好意的に呼応したのはユウナとイルヒだけ。


「ここは大丈夫だから。だからシバの元へ」

「了解。じゃあ頼むぞ、テオン」


 サクはテオンの頭をひと撫でして笑いかけた。

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