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吼える月
第18章 荒波
 

 後方でそんなことになっているなど露知らず、サクがシバの元にて応戦する勇姿を意気揚々と見ていた三人。


「お嬢、猿って凄いね!! どうしてあんな怪物相手に、戦えるんだろう。ぶんぶん振り回しているシバの青龍刀、あれ……力持ちのヨンですら、ひとつを両手でうんうん唸りながらちょびっとしか持ち上げられなかったのに。しかもその後腰痛めて寝込んだんだよ!?」

「でしょう、でしょう!? サクは凄いのよ~」


 サクを褒められ、ユウナは鼻高々だ。


 改めて客観的にサクの動きを見ていれば、そのしなやかに動く体躯と、大刀を軽々と操るその刀捌きに惚れ惚れしてしまう。

 元来、ユウナはサクの戦う姿は大好きなのだ。

 時折ふにゃあと笑うあどけない顔も好きだが、獲物を見定めれば、途端に凜々しく……そして雄々しい姿に変わるその差分に、いつもドキドキさせられる。

 自分が守って貰っている分には然程感じないのだが、ひとの称賛を受ければ興奮は倍増、自分のことのように嬉しくて堪らなくなる。

 そのサクが、自分の武神将になってくれると言って貰えたことを、誰かに自慢したくて仕方が無い。

 それくらい、ユウナにとってサクは誇りで。


「それにね、サクは武術だけではなく、玄……」


 "玄武の力もあるのよ"

 続けようとして、ユウナは無意識に言い淀む。


 なぜか、それを言ってはいけないような気がしたのだ。

 玄武の武神将ということ自体を。


 そしてふと思う。

 なぜ玄武の力をサクは使わないのだろうか、と。


――消去法でいけば、姫様の言う"にょろにょろ"青龍は、地の神のようです。だけどおかしいですよね、だったらなんで蒼陵は海の国なのか。


 あの怪物が神獣であるのなら、あれもまた相応の力を使ってもいいはずだが、力というものは使わない。爪やら牙など物理攻撃だ。


 もし、人外の力を使うとするのなら、海の中から登場して大地の力?

 もし、"使えない"のだとすれば、なぜ?


 なにか、ひっかかる。


――姫様。4つの神獣の力は、共鳴しあうものだと聞いています。だけど玄武の力を宿す俺には、なにも感じない。


 海から出て来た青い龍。


 あれは神獣、青龍?

 それとも――?
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