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吼える月
第18章 荒波
 

 容赦ない"折檻"に、いつの間にか寄り添っていたテオンとイルヒが震えて、小声で会話した。



「テオン……。あの猿、お嬢に噛みついてるよ…。なんなんだい、あの猿。ただお嬢に回されている飼い猿じゃなかったのか!!」

「……すごいや。とにかくなんだかすごい。だけど……」


 サクの正体を掴めぬふたりの前、サクは濡れた体のままで、やはりずぶ濡れのユウナの体を正面から思いきり抱きしめる。


「死んだら……痛みすら感じないんですからね。すべてなくなってしまうんですからね。痛いと思えるだけ、幸せで……」


 サクの両手が震えていた。


「サク……心配かけてごめ……んなさい」


「本当ですっ!! もうあんな無茶はやめてください!! 俺と姫様のこれからも、すべて……なくなってしまうんだ。そんなこと……許さねぇからな、俺は!! わかったか!!」


「――は、はいぃぃぃっ!?」


 途中、突然語気を荒げたサクに驚くユウナ。それに対してサクは表情をなにひとつ変えず、いつも通りの軽い口調に戻した。


「あ、すみません。根っこにある素が出てしまったようで。いや、いつもも素ですが。ということで、お説教は後回しにして……」

「ええええ!? まだあるの!?」


「……なにか?」

「い、いえ……」



 サクは大きいため息をひとつつくと、テオンとイルヒを呼んだ。


 そして、甲板の端にて団子のようにひとかたまりになって、ぶるぶる震えている子供の前で腰を落とすと、子供達と同じ目線の高さで言った。
 

「おい、こら」


 子供達の瞳には赤さはなく、ただただ恐いものを見たかのような怯えの色だけが、闇のような元の黒さを見せる瞳に揺らぐ。


「俺が護れと言った姫様に、テオンにイルヒに。お前達、なにをしていたのか自覚あるのか?」


 じわりと涙が浮かぶところを見れば、わかっていたのだろう。

 不可抗力的な外的作用があったにしろ、"操られていた"というより自らの意志の介在を自認している点で、彼らの中では罪となっているらしい。

 ユウナ達が見ていた凶暴さはまるでなく、罪悪感と恐怖感に打ち震えるその姿は、ただの子供だった。
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