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吼える月
第19章 遮断
 



 潮流に乗った船は速度を上げて進み続けるが、まだ目的地に着く気配はない。真上から燦々と陽光を降り注ぐ太陽が傾きかける頃には、彼らの牙城に行き着くらしい。


 潮流や強風に耐えられる船の補修だけではなく、船上での遅れた昼餉作り、サメの負傷者の手当――。


 休憩後、シバの指示にて各々子供達は仕事に移り、てきぱきと仕事をこなす中、仕事をシバにせがんだユウナはイルヒ率いる"救護班"の配属となった。

 サメによる負傷程度が酷い者は、先に止血だのシバによる応急処置はなされていたのだが、きちんと処置を行うのがイルヒの勤めらしい。イルヒは元来器用で、年齢の割には機転がきいて優しいから、力が取り柄の男達がやるよりも適任だとテオンが笑うと、イルヒは得意げに鼻を鳴らした。


――そりゃあ、船に乗らせて貰っている以上、あたいにも受け持つ仕事というものがあるんだよ。力仕事は出来ない代わりに、兄貴が見張りと救護の仕事をくれたんだ。だからあたい、頑張るんだ。


 女だからと言う理由で船に乗せて貰えない現状で、女だからという理由で適格な仕事を与えて船に乗せる"兄貴"ことギルは、なかなかの人物だとユウナは好ましく思った。

 
 女だから陵辱され道具にされた自分も、女ゆえに出来ることがあるのだと言われている気がして。サクはギルに対して随分と警戒心を抱いているようだが、ユウナはちゃんと話してみたいと思った。


――よし、お嬢!! だったら始めるよ!! まずは傷口を綺麗な布で拭って、薬草をつけて。はい、これね。


 頑張ろうと意気込むユウナは、これから万が一サクが負傷した際に、自分が手当をしたいと思った。その為の練習だと、自分に気合いを入れた。


 だが――。


 山に生える植物とは縁が無い蒼陵国では、薬草は乾燥したものを携帯するのが常なのだが、薬草の匂いには嗅ぎ覚えがあるものの、細かくなったそれらをどうやって負傷者の患部につけていいのか、ユウナにはわからない。
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